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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)185号 判決 1989年9月25日

原告

丸山邦典

被告

特許庁長官

右当事者間の昭和63年(行ウ)第百八十五号異義申立て却下決定取消請求事件については、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が、昭和六三年七月八日昭和六一年判定請求第六〇〇五八号事件の判定に対する原告の異義申立てについてしたこれを却下する旨の決定を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和六一年六月一三日、特許庁に対し、判定を求めたことろ(以下「本件判定請求」という。)、特許庁は、昭和六一年判定請求第六〇〇五八号事件として審理した結果、昭和六二年二月二六日、本件判定請求について判定をした(以下「本件判定」という。)。

2  原告は、本件判定に不服があつたので、昭和六二年五月四日付及び同年七月七日付上申書(以下「本件上申書」という。)をもつて、被告に対し、本件判定は承服することができない旨上申した。

3  被告は、昭和六二年七月八日付処分書をもつて、判定後の差出しを理由として、昭和六二年五月四日付の本件上申書を不受理処分にし(以下「本件不受理処分」という。)、同月二一日右処分書を原告に送付し、同処分書において、同処分に不服のある者は、六〇日以内に行政不服審査法による異議申立てをすることができる旨教示した。

4  原告は、昭和六二年八月八日、前3の被告の教示に従い、本件判定に対して行政不服審査法による異議申立てをした(以下「本件異議申立て」という。)。

5  被告は、昭和六三年七月八日、「判定は、特許庁の単なる意見の表明であつて、鑑定的性質を有するにとどまると解するのが相当である。」旨判示した昭和四三年四月一八日最高裁判所判決を引用し、「判定は、法に基づく不服申立ての対象としての行政庁の処分その他公権力の行使に当たらない」として、行政不服審査法四七条一項の規定を適用し、本件異議申立てを却下する旨の決定をした(以下「本件却下決定」という。)

6  しかし、右判例は、昭和四三年のものであつて、昭和五〇年六月二五日法律第四六号による改正後の特許法の下においては不適当な判例であるから、右の判例を引用して本件異議申立てを却下することは、違法である。

7  よつて、原告は、本件異議申立てを却下する旨の本件却下決定の取消を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1(一)請求の原因1の事実は認める。

(二)同2については、原告から被告に対して本件上申書が提出されたことは認めるが、本件上申書の内容については知らない、

(三)同3については、処分書を送付した日は知らないが、その余の事実は認める。

(四)同4については、「前3の被告の教示に従い」との部分は争い、その余の事実は認める。被告は、本件不受理処分について異議申立てができる旨教示したのであつて、本件判定について異議申立てができる旨教示したものではない。

(五)同5の事実は認める。

(六)同6は争う。

2  特許法七一条が規定する判定の制度は、第三者の実施している一定の技術的事項が特許発明の技術的範囲に属するか否かを、被告が指定する三名の審判官をして、判定させるとういものであり、特許発明の技術的範囲を明確にする確認的行為であつて、新たに権利を設定したり、設定された権利に変更を加えたりするものではなく、法的な効果は生じないものである。したがつて、判定は、特許庁の単なる意見の表明であつて、鑑定的性質を有するにとどまるものである。そして、行政不服審査法が、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に対する不服申立てを認めているのは、これらの行為が国民の権利義務に直接関係し、国民の法律上の利益に影響を与えるおそれがあるという理由によるものであるから、特許庁の単なる意見の表明にすぎず、原告の権利若しくは法律上の利益に直接影響を与えるものではない判定は、行政不服審査法が規定する不服申立ての対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは解されない。よつて、本件判定に対する本件異議申立てを却下した本件却下決定は、何ら違法な点は存しない。なお、原告は被告が本件却下決定において引用した判例は、昭和四三年のものであつて、昭和五〇年六月二五日法律第四六号による改正後の特許法の下においては不適当な判例であると主張するが、同改正によつて判定制度は改正されていないのであるから、原告の右主張も、失当である。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1の事実、同2のうち、原告から被告に対して本件上申書が提出された事実、同3のうち、被告が、本件上申書について本件不受理処分をし、その処分書において同処分に異議申立てをすることができる旨教示した事実、同4のうち、原告が本件異議申立てをした事実及び同6の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、右争いのない事実に基づき、本件却下決定が違法であるか否かについて判断するに、行政不服審査法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くものであるが(行政不服審査法一条一項)、右にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、国民の権利義務に直接関係し、国民の法律上の利益に影響を与える行為、すなわち、右のような法的効果を有する行為をいうものと解すべきであるところ、特許法七一条に規定されている判定は、原告引用の判例に説示されているとおり、特許庁の単なる意見の表明であり、鑑定的性質を有するにとどまるものであつて、第三者にたいしてはもちろんのこと、判定を請求した当事者に対しても、何ら右のような法的効果を有するものではないというべきである。したがつて、判定は、行政不服審査法が規定する不服申立ての対象である行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為と解することはできない。そうすると、本件判定に対する行政不服審査法に基づく本件異議申立てを不適法として却下した本件却下決定には何ら違法の点は存しない。なお原告は、本件却下決定が引用している判例は、昭和四三年のものであつて、昭和五〇年六月二五日法律第四六号による改正後の特許法の下においては不適当な判例であると主張するが、同改正によつて判定制度は改正されていないのであるから、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件不受理処分の処分書において被告から教示されたところに従い本件異議申立てをした旨主張するが、成立に争いのない甲第一六・第一八号証によれば、被告は、本件不受理処分について行政不服審査法による異議申立てをすることができる旨教示ものであつて、本件判定について異議申立てをすることができる旨教示したものではないことが認められるから、原告の右主張も、採用の限りではない。

二  以上によれば、原告の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水利亮 裁判官 設楽隆一 裁判官 長沢幸男)

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